無接点静電容量方式とはスイッチ(キーを押したことを検知する部品)の仕組みの一種です。
ポイントは「無接点」と「静電容量」です。
多くのキーボード(メンブレン式や一般的なメカニカル式)は、キーを押すと物理的な「接点」同士がカチッと接触することで、「キーが押された」と認識します。
しかし、この方式では物理的な接点がありません。キーが底まで到達する前に、ある一定の深さまで押されたことを検知します。
では、どうやって接点なしに検知するのでしょうか?ここで「静電容量」という電気的な性質を使います。
簡単に言うと、キーの下にはセンサーがあり、キーが押されるとキー内部の部品(円錐状のスプリングなど)がセンサーに近づきます。
物体が近づくと変化する微弱な電気的な値(静電容量)をセンサーが常に監視していて、その値が「ある一定量変化した」ことをもって「キーが押された」と判断するのです。
指が近づくだけで反応するスマートフォンのタッチパネルも、この静電容量の変化を利用している身近な例です(仕組みは少し違いますが、原理は似ています)。
代表的なメーカー: この方式で最も有名なのは日本のTopre(東プレ)です。同社の名前をとって「東プレスイッチ」と呼ばれることもあります。また、高級キーボードとして知られるHHKB (Happy Hacking Keyboard)の一部モデルにも採用されています。
物理的な接点がないため、接点が摩耗したり、ホコリなどで接触不良を起こしたりする心配がほとんどありません。
理論上、数千万回~1億回といった非常に多くの打鍵に耐えられると言われており、一般的なキーボードよりずっと長持ちします。
キー内部にラバー製のドーム(お椀のような部品)と円錐形のスプリングが使われており、これが独特の打鍵感を生み出します。
押した時には「スコスコ」「ポクポク」といった表現されるような、柔らかく、かつしっかりとした感触があります。底打ち感も柔らかいです。
一般的なメカニカルキーボードの「カチカチ」音とは異なり、比較的静かな打鍵音も特徴です(全く無音ではありません)。長時間のタイピングでも疲れにくいと感じる人が多いです。
接点がないため、一度押しただけなのに複数回入力されてしまう「チャタリング」という現象が原理的に発生しません。正確な入力が求められる場面でも信頼できます。
製品によっては、キーが反応する深さ(アクチュエーションポイント)をソフトウェアで変更できるものがあります (例: RealforceのAPC機能)。これにより、自分の好みに合わせてより速い入力を可能にしたり、逆に入力ミスを減らす設定にしたりできます。
構造が特殊で、製造コストがかかるため、搭載しているキーボードは一般的に高価です。数万円クラスの製品が多くなります。
種類の少なさとカスタマイズ性の低さ
メカニカルキーボードのように、多種多様なメーカーから様々な打鍵感のスイッチが出ているわけではありません。基本的にはTopre社製のスイッチが中心となり、選択肢は限られます。
また、キースイッチ自体を簡単に交換したり、キーキャップ(キーの頭の部分)を交換したりするカスタマイズの自由度も、主流のメカニカルキーボード(MX系スイッチ)に比べると低いです。(専用のキーキャップは存在します)
メリットで挙げた独特の打鍵感は、人によっては「はっきりしない」「物足りない」と感じる場合もあります。メカニカルキーボードの「カチッ」とした明確なクリック感が好きな方には、好みが分かれるかもしれません。こればかりは実際に触ってみないと分からない部分です。
無接点静電容量方式は、「長持ちで信頼性が高く、独特の心地よい打鍵感を持つ高級なスイッチ方式」と言えます。ただし、「価格が高く、種類の選択肢やカスタマイズ性は低い」という側面もあります。
長時間のタイピングをする方、最高の打鍵感を求める方、一つのキーボードを長く大切に使いたい方などには、非常に魅力的な選択肢となるでしょう。