メカニカル方式キーボードとは、一つ一つのキーの下に独立した機械式スイッチ(メカニカルスイッチ)が搭載されているタイプのキーボードです。
独立したスイッチ: メンブレン方式がシート状の接点を使うのに対し、メカニカル方式ではキーごとに個別のスイッチ部品が使われています。
物理的な接点: スイッチ内部には、バネと物理的な金属接点があります。キーを押すと、軸(ステムと呼ばれる部品)が下がり、ある一定の深さ(アクチュエーションポイント)で金属接点がカチッと接触し、電気が流れて「キーが押された」と認識されます。
多様なスイッチ(軸): ここがメカニカル方式の最大の特徴ですが、スイッチ(通称「軸」)には様々な種類があります。それぞれ押したときの感触(打鍵感)、音、重さが異なります。代表的なものに以下のようなタイプがあります。
リニア(赤軸など): スーッと抵抗なく底まで押せるタイプ。クリック感がなく、比較的静か。
タクタイル(茶軸など): 押していく途中で「コクッ」とした引っかかり(タクタイル感)があるタイプ。確かな打鍵感がありながら、音は比較的控えめ。
クリッキー(青軸など): 押していく途中で「カチッ」という明確な音とクリック感があるタイプ。タイプライターのような打鍵感が特徴。
しっかりとした打鍵感やカスタマイズ性を求めるゲーマーや、プログラマー、ライターなど、タイピングを多用するユーザーに人気があります。
スイッチの種類によって、軽快なものから重厚なものまで、非常に多様な打鍵感を選べます。自分の好みにピッタリ合う押し心地を見つけやすいのが最大の魅力です。
キーが反応するポイント(アクチュエーションポイント)が明確なスイッチが多く、タイプミスを減らしたり、リズミカルなタイピングを助けたりします。
個々のスイッチは頑丈に作られており、一般的に5000万回以上、製品によっては1億回もの打鍵に耐えられるとされています。メンブレン方式に比べて非常に長寿命です。
スイッチ交換(ホットスワップ対応機種): 最近では、はんだ付けなしで簡単にキースイッチ自体を交換できる「ホットスワップ」対応のキーボードが増えています。これにより、後から打鍵感を変更したり、故障したスイッチだけを交換したりできます。
キーキャップ交換: スイッチの軸の形状(特にCherry MX互換軸)が標準化されていることが多く、市販されている多種多様なデザイン・材質のキーキャップに交換して、見た目をカスタマイズする楽しみがあります。
自作キーボード: 部品を集めて自分だけのキーボードを組み立てる「自作キーボード」の世界も、メカニカルスイッチが主流です。
多くのメカニカルキーボードは、複数のキーを同時に押しても正確に認識する「Nキーロールオーバー(NKRO)」に対応しています。高速タイピングや複雑なコマンド入力が必要なゲームで有利です。
特定のキーが故障した場合でも、そのキーのスイッチだけを交換すれば修理できる可能性があります(はんだ付けが必要な場合もあります)。
独立したスイッチ部品を多数使用するため、シンプルなメンブレン方式に比べて製造コストが高く、製品価格も高価になる傾向があります。数千円台の製品もありますが、一般的には1万円以上の製品が多いです。
特にクリッキータイプ(青軸など)は、「カチカチ」という音が大きく響きます。静かな環境(オフィスや夜間の自室など)での使用には注意が必要です。リニアタイプや静音タイプを選べば音は抑えられますが、それでもメンブレンよりは音が響くことが多いです。
スイッチの構造上、薄型化には限界があり、メンブレン方式に比べて厚みや重さが増す傾向があります。持ち運びにはあまり向いていない製品が多いです。
メリットでもあるスイッチの種類の多さは、初心者にとってはどれを選べばよいか迷う原因にもなります。「軸」の種類や特性について、ある程度の知識や試打が必要です。
メカニカル方式は、「打鍵感が非常に良く、耐久性・カスタマイズ性に優れた」 キーボード方式です。タイピング体験を重視する方、キーボードを長く使いたい方、自分好みにカスタマイズしたい方にとっては最高の選択肢となり得ます。
一方で、「価格が高めで、音が大きく、重くなりがち」 という側面も理解しておく必要があります。